続きです。





「無理だ!!」
叫び終えた時には既に、俺は片足を担がれていた。
怒張したソレを、ヤツは俺に押し当てた。

「大丈夫ですよ。今日はまだ、全部は入れませんから。」
「何言ってんだバカ!。」

手術前の外科医のように、ヤツは俺に片手をかざし、
俺を見つめながら、自分の手の平に唾液を移しては舐め上げた。

その姿を見上げて、コイツは綺麗だと、
俺はやっぱり馬鹿みたいな事を考えていた。
背筋が寒くなる程に、綺麗だ。
だけど、狂ってる。

俺がコイツを抱いてれば良かったんだろうか。
遠くを見たまんまだとか、野郎だとか、
そんな事おかまいなしに、
運良く拾った美猫だと思って突っ込んじまってれば、
お前は狂わずに済んだのか?。

でも、違うんだろ?。


唾液で濡れた手のひらでヤツ自身のを濡らして、
ヤツが俺に入りかけた。
だが、俺の身体はそんなふうにできちゃいない。
無理だって言ってんだろバカ。痛えんだよ。

固い俺を溶かすように、ヤツの指が愛撫を仕掛けた。
握っては緩め、次には擦り上げる、同性だからこそ知り得る快楽のライン。
わけのわからない快感が俺を駆け上っていた。
漏れそうな喘ぎを押し留めるのに、俺は死力を尽くした。
「・・もう、止めろ。」

「大丈夫。力を抜いて。」

ヤツの言葉に、抑えていた俺のもう一つの感情が爆発した。

野郎!。

この野郎!!。
俺がいつも女に言ってるような事言いやがって!!。
殺す。
殺してやる。

俺は咄嗟にヤツの首に片手をかけた。
両手を使えなかったのは、床についた手までを離せば
俺はその場に倒れ込むのが分かっていたからだ。

ヤツの首を掴んだ俺の手の親指は、
ヤツの首の中央、つまり気道を捉えていた。
俺が渾身の力をこめれば、そしてヤツが逃げなければ、
俺はヤツを殺れる。

ヤツは逃げなかった。
逃げる代わりに、逆に俺に身を寄せると、
一気に腰を突き上げた。

「・・ぅああっ!。」
熱を感じた。
押し込まれたその部分なのか
頭がなのか、イヤ、身体全体が熱かった。
快感と同量の痛み、
痛みと同量の快感。

俺の片手はヤツの首筋を握りしめていた。
殺意だったのか縋り付くつもりだったのか、
俺自身分からない。
咄嗟に親指が気道を避けていた事も
偶然なのか最後の理性なのか、分からなかった。

仰け反った俺の目尻からは涙がこぼれ落ちた。
痛みのせいか恥のせいか快感のせいか、
おそらくは全てのせいに違いない。


「分かりますか、入ってます。あなたの中に。」
死んでくれバカ。

「動きますけど。いいですか。」
止めて。俺が死ぬ。

呼吸すら浅い臨界点で、まともに言葉が出るわけもない。
俺の返事を待ちもせず、
ヤツの引き抜く動作が俺の内壁を擦った。
俺の幽かな理性すら、それで弾け飛んだ。

「・・うあっ!。」

俺の恥も外聞も無い声に呼ばれたかのように、
ヤツが低く喉の奥で呻いた。
ふと顔を伏せたヤツの肩口の微妙な痙攣で、
俺はヤツが達した事を知った。

俺は瞬間、女をイカせた時みたいな充足感で満たされた。
結局、どう転んでも俺はバカらしい。
俺も、したたかに放っていた。


その場に崩れかけた俺を、ヤツが抱き留めた。
俺は脱力したままで、ヤツに身体を預けた。

余韻を楽しむかのように、ヤツの唇が
俺の耳朶を軽く噛んだ。


「ねえ、あなたは僕のものでしょう?」


何言ってんだよ。
お前、結局何がしたかったんだよ。

精液でも身体でも血でも、
欲しいんならくれてやるって、
初めから言ってんだろ。

そういや言葉で言った事なんかないけど。
分かんだろ。

お前は道に迷っちまったんだよ。
そんでうっかり俺に出会った。

お前はまだ帰り道を探してる。

だけどさ。
無いんだよそんな道なんか。
気付けよ早く。バカ。

・・ああ。
気付いてんのか。


「あなたは僕のものでしょう?」

耳元では熱い囁きが繰り返されていた。
多くを語るには余りにもけだるくて、
俺はただ、吐息をもらすみたいに、ああ、と答えた。



- 続 -

 


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