続きです。





「あなたは本当に、魅力的だ。」

感情の全てを断ち切った冷めたままの瞳で
そんな台詞を囁かれても、馬鹿にされたとしか思えない。

壁に貼り付いたままの俺の頬に、ヤツの長い指が触れた。
繊細で冷たい指先が俺の頬をなぞっては、耳の後ろへと回る。
ヤツは俺を引き寄せると、まだ口の端に紅を残したままのその唇を重ねた。

俺は、何かに怯えるように壁に背を付けたままで、
降ろされた両手の平までもが少しでも後退ろうとするかのように、
壁に貼り付いていた。

棒立ちのままの俺と、冷めた目のままのヤツが、
お互いの唇だけで生を感じて、生暖かく湿った感触を伝え合った。
舌をすら求めたヤツの唇を、俺は拒まなかった。
拒めなかった。

俺を引き寄せたヤツの、もう一方の空いた手が、
ジーンズの上から俺自身を探り当てていた。
服の上からでもすぐに、俺の高まりは確認できただろう。

貪るように俺の舌を求めながらも、
ヤツは片手を俺のジーンズのベルトにかけた。
ベルトの端を引いて軽く締め付けた後、逆側に逆手で勢いを付けて引く。
あとはジッパーを降ろすのとほぼ同時に、俺のを引きずり出す。
手品みたいな早業だ。

なんでコイツは、こんな事が上手くなっちまったんだろう。

ヤツが、俺の前に膝を付いては屈み込んだ。
それから俺は、俺をくわえ込んでは動くヤツの黒髪を
見るともなく見下ろしていた。

お高くとまったロシアンブルーの翠目が、
俺をくわえては吸い上げ、舌を絡ませる。
もういい、と、何度も言いかけて、結局言葉にならないのは、
口を開いた途端、きっとそれは喘ぎにしかならないからだ。
俺は喉の奥で、何度も突き上げる快感を押し留めた。

張りつめきった俺を焦らすように、
ヤツは俺から口を離すと、片手でソレを弄んだ。
握った手の中から顔を出した先端を、親指の腹で撫で付ける。
ふと、その指先がぬめった。
先走った俺の体液を知って、ヤツは満足気に俺を見上げた。

ヤツはソレの根元に口を寄せると、
俺に視線を絡ませたままで、一気に先端まで舐め上げた。
上手くできた人形みたいに整った顔立ちが、
俺を見つめながら、俺を舐め上げていた。

喉の奥で押さえつけていたはずの喘ぎ、つまりは俺のプライドが、
無意識に、漏れた。

確かに快感を滲ませた自分の声音に、眩暈がした。
思わずヤツの顔にブチまけそうな衝動を、俺は命懸けでこらえた。
俺のそういう最低なみっともない姿を、
ヤツが望んだような気がしたからだ。

眩暈が止まらなかった。
俺は目を伏せて、背後の壁に後頭部を押しつけた。
ふと、俺の指先に、ヤツの手が触れた。
俺を引くヤツに導かれるまま、俺はその場に崩れ落ちた。



- 続 -

 


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