37


     
     「で・・。だ。」
     
     閉店後の店内、僕と梧譲の2人きりという
     僕的には非常に居心地の悪いシチュエーションで
     彼はいきなり切り出した。
     眉間に皺を寄せた彼は、くわえ煙草でテーブルの脇に突っ立っている。
     
     自宅に帰る道すがら、雑踏に揉まれつつ話すことになるだろうとふんでいた僕にとって、
     これは予想外のフェイントだ。
     しかし今の僕はそんな文句を言えるような立場でもないわけで。
     
     「そんで・・何よ。」
     「何、とは。」
     「説明しろ。どーゆーことか。」
     
     怒っているような困っているような、投げやりなような、
     なんとも言えない複雑な表情で、梧譲が客席の僕を見下ろした。
     彼に視線の高さを合わせるために、僕は椅子から腰を上げた。
     
     久しぶり、と言っても一日ぶりの彼と睨み合いながら、
     彼のこんな顔は初めてだなあなんて、僕は間の抜けた事を思う。
     
     僕は話すべき事柄を思い付いていたわけでもない。
     だけど二人きりの状況だというなら、話すよりもっとシンプルな方法がある。

     「このまま逃げちゃうつもりだったんですけど。」
     「あん?。」
     「貴方の場合、僕をブン殴らないと気が済まないんだろーなー、なんて。」
     
     まあ、嘘だけど。
     
     前夜、梧譲は悟一を連れ出した。
     悟一のことだからきっと、絵を汚したのは自分だと告白したに違いない。
     直接の加害者が悟一だと判明したところで僕の監督責任は免れないけれど、
     その事以上に、僕は彼の部屋にあんな置き手紙を残してきたわけで。
     
     僕に腹を立てつつも、彼はきっと僕を殴れない。
     僕が挑発でもしない限りは。
     
     「どうぞ。」
     「・・。」
     「そのつもりで来てますから。」
     
     彼が口の端にくわえた煙草の先で、長く伸びた灰がふと崩れ落ち、
     塵一つ無いフロアへと散った。
     
     「それとも、僕が可哀想に思えちゃったりしてます?。」
     
     自分を嘲笑って片頬を軽く吊り上げた僕は、
     人目には彼を馬鹿にして嗤ったみたいに見えるだろう。
     その辺も、計算済みだ。
     
     「へ。」
     
     お前の自己満足の茶番に付き合う気はねーや。
     そんな感じに視線を斜め上に投げ出してみせたあと、
     彼はおもむろに僕に背を向けた。
     
     街のチンピラよろしく無駄に肩を揺らした彼が僕から遠ざかっていく。
     一歩、二歩。
     
     (・・あ。)
     
     その気がないように背を向けたのは彼のフェイントだった。
     踏み出した彼の三歩目が軽く後ろに、つまり僕側に引かれた時点で
     僕は彼の意図を読み取った。
     
     (うわ。)
     
     僕の頭に浮かぶイメージとその後の現実の出来事は、
     ほぼ同時の瞬発力で炸裂した。
     
     つまり、彼はちょっと振りの入った三歩目を踏み出す勢いを利用して僕へと向き直っていた。
     振り上げられた彼の三歩目は床に落ちることなく、振り返りざま僕の顔面へと蹴り上げられた。
     腰から真っ直ぐ伸びた足先と、斜め後ろに反った上体のバランスは絶妙だ。
     こういうのも一種の芸術に違いない。
     と、全然そんな事を思っている場合じゃなかった。
     僕は彼の靴底を視界の一部に捉えた後、身体的な反射で目を閉じた。
     
     (・・。)
     
     予測された衝撃がおとずれないような気がする。
     
     ということは僕は既に気を失って倒れたあとなんだろーか。
     
     怖々薄目を開けて確認すれば、
     時は僕が目を閉じる前の瞬間から凍り付いたようだった。
     見事なフォームで僕の耳上辺りに振り上げられた彼の靴先は、
     揺らぐ事もなく未だその場所に留まっている。
     
     悪夢の途中で目が覚めた気分だ。
     
     僕は思わずもう一度目を閉じるところだった。
     しかしこれは悪夢でもなく現実であり、寝直しても状況は変わらない。
     それに僕が「どうぞ」と挑発して呼び込んだ現実だ。
     殴れと言ったのに蹴るあたりに彼の自主性も感じられるけれども。
     
     (負けました。)
     
     そんな想いを込めて、僕は肩の高さに両手を上げた。
     僕の意を汲んでか、彼の足先は床へと静かに下ろされた。
     
     それから彼は客席の一つを引き寄せて逆向きに跨ると、
     背もたれの上部に両腕を乗せて、その腕の上にうずくまるように顔を伏せた。
     僕に背を向けて座るというのは、一体どういう感情表現だろうか。
     
     「は〜。」
     
     大きく溜息を漏らした彼の背後で、
     僕は誰に見られる事もなく、自分の後頭部を掻いた。
     
     
     「まいったなあ。」
     
     僕に背を向けたままで、彼は独り言のように話し出した。
     
     「殴れなんて言うヤツ殴ったってつまんねーしさあ。」
     「・・蹴ったくせに。」
     「蹴ってもナイでしょ。」
     「まあ、そうですけど。」
     
     「今更僕にできる事があるならなんでもするんですけど・・あいにく。」
     
     何もできることがないと分かっているせいで、
     僕の言葉には力が入らない。
     
     「じゃ、弾け。」
     「は?。」
     「弾け。」
     
     窓際の僕に背を向けて座り込んだ梧譲はつまり
     フロア中央を向いている。
     客席の椅子に逆向きにまたがり、その背もたれに頭を乗せた彼の目前には
     白いグランドピアノが屋根を立てている。
     
     僕が彼の後ろ姿を凝視していることを知っているみたいに、
     彼は僅かな頭の動きで僕に目前のピアノを指した。
     
     「全然そんな気分じゃないんですけど。」
     「言える立場かよ。」
     「貴方だって聞きたい気分じゃないはずだ。」
     「ほっとけ。」
     「そんな嫌がらせ、貴方らしくもない。」
     
     「弾けっつってんの。」
     「嫌です。」
     「但し、お前の好きな曲。」
     「?。」
     
     状況が良くのみこめないままに、僕は言葉に詰まっていた。
     ふと湧いた静寂に戸惑うみたいに、彼は新しい煙草に火を点けた。
     
     「俺さあ、考えたワケよ。頭の足りない俺ナリに。」
     「はあ。」
     「俺、お前の事勝手に、分かり合った相棒みたいに思ってた。」
     
     喜ばしいはずの言葉も、過去形なあたりが僕の胸に突き刺さる。
     だけど、自業自得だった。
     
     「俺、お前の事なんも分かってないんだった。」
     「はあ。」
     「それは、だ。アサハカな俺が悪い。」
     「はあ。」
     「そこで同意すんな。まだ続くから。」
     
     僕は他に言葉も無く、ちょっと小さめの声でやはり「はあ」とだけ言った。
     
     「お前も悪いんだ戒而。オープンじゃねえから。」
     「はあ?。」
     「お前、ガード固くて分かりにくい。」
     「・・。」
     
     「だから弾けっつったの。」
     
     (お前の好きな曲を。)
     省略された言葉の最後を補えば、彼の言葉の意味が理解できた。
     
     僕はただ、梧譲の背を見つめて立ち尽くした。
     答えない事が、僕のささやかな抵抗だった。
     
     僕の負けはもう確定している。
     手に入らないと分かってしまった存在の前で、今更裸になる必要があるだろうか。
     
     「イヤならいいけどさ。」
     
     しょぼくれた背中で、彼がそう言った。
     
     「さっき『逃げちゃうつもりだった』とか言ってたけど。
     お前やっぱ、逃げたまんまだよ。」
     
     お前は卑怯だと、そう言われた気がした。
     
     軽く、眩暈がした。
     
     ◇◇◇
     
     ただ倒れないように踏みだしたのか、それともその時既にそういうつもりだったのか
     自分でも良く分からないままに、僕はフロア中央の鍵盤の前に寄った。
     椅子に腰を下ろすと同時に、というよりはタッチの差で腰よりも早く、
     僕の両手は鍵盤を叩きつけていた。
     
     怒りなのか戸惑いなのか、
     自分でも判断できない感情に突き動かされた手はしかし、
     訓練されたものの悲しい性で、
     決してデタラメではない和音を叩き出していた。
     
     果たしてそれが何という曲のオープニングだったのか、理性が認識する以前に、
     身体が覚えたフレーズを畳みかけるように叩き出す。
     
     ポロネーズ第六番、「英雄」。
     
     速駆けの3拍子が勇壮なテーマを奏でるあたりで、
     ようやく僕はその曲目を思い出していた。
     ショパンにしては珍しく、壮大で晴れやかな曲調。
     
     民族音楽的に明快なテーマだが、
     そこここに繊細な修飾音が散りばめられているから
     決して気は抜けない。
     
     気が抜けないと言っても例えばビル・エヴァンズの「抜けなさ」とは意味が違う。
     情感に富んだ装飾の数は、決して採譜できない溜めや走り、
     つまり微妙なテンポや音量調節を弾き手に要求する。
     要求するというよりは、曲調が勝手に弾き手から引き出してくるとでも言うべきか。
     そして、引き出される微妙なアレンジの源泉はといえばつまり、
     弾き手の感情以外にあり得ない。
     
     ショパンは、弾き手、聞き手双方の感情に、あまりに深く沈み込む。
     
     だから僕は、ショパンが嫌いだ。
     
     と、今のオーダーは「僕の好きな曲」だったはずだ。
     ここに座った以上、僕はリクエストをのんだ事になる。
     僕は一体何を血迷っているのだろう。
     
     曲はちょうど、勇壮な序奏から繊細な語りの次章へと移ろうとしていた。
     僕はもう一度晴れやかなテーマを叩き付けるように繰り返し、
     その後多少無理矢理に終止形の和音をガツンと入れた。
     ほら、終わり。
     
     「どうです?。」
     
     「悪くないんじゃない?。」
     「それは良かった。」
     「好きな曲?。」
     「ええ・・まあ、程々に。」
     
     梧譲はさっきから客席の椅子に逆向きに跨ったままだ。
     彼の背後から回って鍵盤の前に座った僕は、
     今や彼の視線の真ん前に晒されている。
     
     曲を半分弾いただけで、いつになく息が上がった自分を訝しく感じるのと同時に、
     そんな自分を人目に晒しているというのが、どうにも僕的には落ち着かない。
     
     「あとは?。」
     
     僕の心情を知ってか知らずか、彼は次の演奏を促した。
     この程度じゃ許してもらえないらしい。
     
     「あとは・・。」
     
     彼の言葉を自分で繰り返して、僕は適当に鍵盤を叩く。
     
     一度リクエストをのんだからには、腹を据えたつもりだった。
     「好きな曲」。
     しかし鍵盤を適当に探りつつも、
     音はいつまでも単純なスケールのままで、曲にならない。
     
     その時ようやく、僕は初めてある重大な事実に気付いた。
     
     僕には、好きな曲なんて無かった。
     
     
     それは、僕自身にとっても衝撃だった。
     なんとも馬鹿げた話だけれども。
     
     謎の気勢も削がれた僕は、ぼんやりとスローな和音を叩き始めていた。
     ジムノペディ。しかもいきなり3番だ。
     
     サティという音楽家は謎だ。
     一見華麗な曲調のなかに、不安や不信を閉じこめる。
     それは他者を欺く目的か、それとも自己欺瞞の為か。
     ジムノペディは1番、2番とその欺瞞度を増していく。
     3番に至っては神経症の人間が「もう大丈夫」と嗤っているようにすら思える。
     ・・僕か。
     
     「そーゆーんじゃなくて。」
     
     たったひとりの観客席からは、早速ダメ出しの声が上がった。
     僕は鍵盤から諸手を上げた。
     ついでにがっくりとうなだれた。
     
     過去最高にシビアな観客だった。
     その審美眼は侮れない。目じゃなくて耳なのはともかく。
     僕が惹かれただけのことはある。
     
     などと感動してる場合でもなかった。
     
     僕に好きな曲なんてなかったと、
     そのままに告白したら納得してもらえるだろうか。
     
     (・・まさかね。)
     
     普通、そんな弾き手はいない。
     
     ふう、と、一度小さく溜息をついた後、
     僕は鍵盤に向かって背筋を伸ばした。
     何かに取り憑かれたみたいな今までのタッチじゃなく、
     あくまでも意識的に、左手で緩く低音のアルペジオを流す。
     夜の河の流れを思わせる翳った旋律に、
     月の光が落ちるみたいに、右手は高音のメロディを歌い出す。
     
     夜想曲、第19番。
     僕が好きだったかもしれない曲。
     
     僕の好みがどうだったのかは、正直なところ思い出せない。
     
     華喃が好きだった曲。
     
     
     そもそも、ピアノを習いたがったのは僕じゃなく華喃だった。
     それはまだ僕達が小学生の頃。
     僕は華喃というお姫様を守る騎士のような気分で、
     彼女と一緒のお稽古事に通った。
     
     しかし病弱な彼女に通いのレッスンは荷が重く、
     結局習い続けたのは僕ひとりだった。
     
     姫があきらめたレッスンに何故自称ナイトだけが通い続けたかと言えば、
     姫が僕のピアノを聞きたがったせいだ。
     
     華喃は好きな曲に出会うと、どこからか楽譜を手に入れてきて、
     それをこっそり僕の練習曲の譜面に混ぜ置いた。
     (良かったら弾いてほしいんだけど。)
     そんな控えめな(或いは大胆な)お願いが僕には嬉しくて、
     発表会の曲より優先で割り込んだ譜面を練習した。
     
     混ぜ置かれる譜面は、初めはドラマのテーマや歌謡曲が多かったけれど、
     僕達が高校に上がる頃には、ショパンが増えていた。
     そしてじきに、ショパンばかりになった。
     
     高校生にもなるとお互い、同性の友達との付き合いが増える。
     僕達もお互いの部屋にお互いの友達を呼んだりしていたから、
     子供の頃みたいに家ではいつも一緒、とはいかなくなっていた。
     
     だけど、僕がショパンを練習している時に限って、
     彼女はよく居間に顔を出した。
     彼女の友達を呼んでいる時なら、その友達と一緒にピアノの脇に座った。
     そして華喃と一緒にお友達の方も顔を出した日には、
     (ああ今日はハズレだ)なんて、僕は失礼な事を考えていたわけだ。
     
     (「綺麗な曲ね。」)
     
     僕がショパンを弾くと、華喃はいつも夢見る顔でそう言った。
     だけど僕は、自分の弾く曲が綺麗なのかどうか、正直良く分からなかった。
     ショパンの繊細さのみならず、幻想が幻想のままの儚さも含めて「綺麗」と表現するのなら、
     美とは、ある意味残酷な現実そのものだということにならないだろうか。
     
     だけど、それならそれで良かった。
     彼女が認めるものが僕の「美」だった。
     儚さや触れたら壊れそうな危うさも含めて、僕はショパンを受け入れた。
     
     そして繰り返して弾くうちに、いつの間に好きになっていた。
     僕もショパンが好きなんだと思っていた。
     
     彼女を失うまでは。
     
     
     3部形式の夜想曲は、2部後半の一際華やかなトレモロへと流れ着いたところだ。
     夜の河に映る月の光、光の中で踊る妖精達。僕にとってはそんなイメージだ。
     妖精という幻想が、流れの上に瞬く光という幻想の中で戯れる。
     夢のなかの夢。
     儚すぎる影絵の世界を紡ぎながら、僕は音の中に僕自身を埋めた。
     
     華喃の傍らで弾いた、あの頃のように。
     
     曲と自分との距離を保ったままで弾くことなんてできない。
     ショパンはそういう類の何かだ。
     だから僕は、ショパンが嫌いだ。
     
     曲は第3部、1部の緩やかな旋律をもう一度呼び戻す。
     雲の狭間から光を投げかけていた月は再び雲の間に隠れ、
     妖精達も静かに姿を消していく。
     後には、はじめから何も無かったみたいに夜の河が流れ続ける。
     そして間もなく、幻想の風景自体も霞むように消え失せる。
     
     懐かしい曲が、静かに収束した。
     
     夜の河の幻は消え、自宅の居間の残像も華喃との想い出も消えて、
     僕の前に残るのは、白と黒のコントラスト。
     
     モノトーンの鍵盤を見るともなく見つめつつ、
     僕はようやく今自分がやっていたことの意味を思い出した。
     
     「ええと。」
     「すげー!。」
     「え。」
     
     どうやら僕に好きな曲なんてなかったみたいだと、
     曲を終えたら僕は正直に話すつもりだった。
     だけど僕が「自分は空っぽな存在です」などと告白するより先に
     梧譲は興奮気味に声をかけてくれた。
     僕は救われた気分で、愚かな告白を胸の内に留めた。
     
     「今までのとは全然違う感じ。」
     「ええ。本来は『繊細で甘美』とか表現される曲なんですけど。」
     「そーだったんぢゃないの?。俺良く分かんないけど。」
     「僕の場合、妙な葛藤を含めちゃったりして。」
     「いーんじゃない?。」
     「そ、そうですか?。」
     「それもまた戒而らしいっつーか。」
     「誉め言葉です?。」
     「そーでもないかな。」
     「・・なんだ。」
     
     「あのさ。」
     
     短くいいかけたあとに、梧譲は肩下までの長髪を掻き上げた。
     気まずい話を切り出すべきかどうか、戸惑っているんだろう。
     
     僕なら大丈夫。
     僕は今日、ちゃんとフられる為に敢えてココに来たのだから。
     
     「俺も悪かった。
     お前その、出会った時からワケありっぽいっつーか、
     女にフられたとか後で聞いたわけだけど、
     俺全然そういうこと考えなくて、
     俺だけひとりで浮かれてた。」
     
     「は?。」
     
     「悪かった!。」
     
     彼は逆向きに椅子に跨ったままの姿勢で
     両膝をつかむように両手を置くと、勢いをつけて僕に頭を下げた。
     その位置でそんな事をすれば、
     彼自身が腰を下ろした客席の背もたれに額をぶつける事くらい子供でも予測できる。
     
     「痛!。」
     
     バカバカしいような気の抜けたような、
     何とも表現しがたい感情を、僕は鍵盤に向けた。
     それは僕なりの照れ隠しだった。
     
     最終的な通告を突きつけられなかった安堵に溺れないように。
     彼の優しさにつけこまないように。
     そんな自身への戒めにふさわしい曲。
     
     僕が選び出した旋律は、またしてもショパンだった。
     
     最近はテレビのCMなんかにも使われて、
     今や世界的になじみ深い旋律。
     
     「あ。聞いたことあんな、それ。」
     「でしょう。」
     「なんて曲?。」
     「練習曲ホ長調10の3。」
     
     「へー。」
     
     全然感心した風でない彼の棒読みの「へぇ」に、
     僕は少しだけ肩を揺らして笑った。
     
     一般的に「別れの曲」という俗称だとは、
     彼には教えたくない気分だった。


     - 続 -
     .

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