続きです。




『お、お願いしちゃお〜かな〜。なんつって。』


史上最悪の表現で受託されて、僕は今彼に対峙している。

ずっとすぐそばにいて、ずっと手が届かなかった彼に、最高に馬鹿げた方法で許された。
その言葉が本気であろうがなかろうが、一度解放された衝動はおさめようがない。
だって、あんなにも長い間、僕は求めていたのだから。

「お。おおおおおい。八戒!!。」
「何ですか。」
おもむろに乗りかかった僕に、彼は今更動揺した。

遅い。
もう手遅れです。

「おお前、目据わってないか?!」
「僕に見えるわけないでしょう。」
「なんで俺にまたがるんだよ!。」
「あなたが逃げるからです。どうして思い切り身体引くんですか。」

僕は彼のシャツのボタンに手をかけた。
「おおお前本当に八戒か?!背中にチャックとかついてないか?!」
「何ですソレ。」
「話せば長くなるんだけど・・」
「メソですね。うすた京介。」
「知ってんじゃねーか!!」
「僕が言いたいのは今更そんな寒いネタじゃ逃げられないって事です。
チャックがついてるかどうか自分の目で確かめればいいでしょう。」

僕は彼が逃げ出さないように睨み付けながら僕自身のシャツのボタンを外した。
それから脱ぎ捨てたシャツは丸めて後ろ手に放り投げた。
この僕のバカぶりと一緒に、身体の大きな見苦しい傷跡もあなたの脳裏に焼き付ければいい。

両方の肩にかかったままの彼のシャツを、僕は両手で押しやるようにして脱がせた。
彼はその手を止めなかった。
先に裸になった僕を目の前にしてあなたが僕の手をこばめるはずがない。
あなたはそういう人だ。
だから僕はあなたが痛々しくて、胸が熱くなる。

あらわになった鎖骨に、僕はそっと唇を這わせた。
「八戒、俺・・」
「黙って。」

あなたは今きっと後悔している。
なのに気付かない振りをして
僕はあなたを手に入れようとしている。
お願いだから何も言わないで。

鎖骨から首筋、耳朶へと、僕はゆっくり唇を這わせていく。
僕たちはこんなふうに始まって、
もしかするとこんなふうに続いていくのかもしれない。
求めていたものを手に入れようとしているのに、不意に泣きたい気分になった。
だけど、なんて便利なんだろう。
僕の身体は充分にその気だし、こんな気分の時こそポーカーフェイスも冴えわたる。

「サービスします。ビックチェリーに負けないくらい。」

彼の唇が何かを告げようと動いた。
止めろ、と言いかけたかもしれないその唇に僕の唇を重ねる。
熱を、感じた。
下唇を咥えるように軽く噛みながら、手はジーンズの上から彼自身を探り当てた。
そう。
こんなふうにされて感じないはずはない。

そういうふうに僕たちはできている。

そしてたとえこんなやり方でも、
僕はあなたを手に入れる。


- 続 -

 


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