続きです。





気がついたら、朝。しかも居間の床の上。

覚めきらない俺の頭をコーヒーの香りが揺さぶった。
ヤツはもう身支度を済ませていて、
皿やらカップやらを手に居間と台所を往復している。
おそらくメシの準備ができた頃なんだろう。

「起きました?。」
「ん。」
「何でそんなところで寝てたんです?」

何でだっけ。
・・ああ、なんか思い出したくもない。
「・・さあね。」

寝ぼけたままで髪をかき上げた俺の顔に、
タオルやら着替えやらがビシバシと投げ付けられた。

「今日は寺行きです。起きたらさっさとシャワーでも浴びて。
その後はすぐに食事。」
「ハイハイ。」
「ハイは一回。」
「・・。起きた猫は厄介だよな。」
「何か言いました?。」
「イエ何も。」

俺はマネージャーの指示通り、シャワーを浴びて着替えをして、メシを済ませた。
言う通りにしてる分には怖い思いをする事も無い。
そういや俺達、喧嘩してたんだっけ。
どうなったんだろうなあれは。
別にいいけど。

さて出掛けっか、と立ち上がった俺をヤツが呼び止めた。
「悟浄?。」
「何?。」
振り向いた俺にヤツが両腕をまわした。
俺よりちょっとだけ足りない上背を埋めるように、
ヤツはまわした腕で俺の頭を引き寄せては、
幾分下から唇を重ねた。
俺はその柔らかい感触を、感じないフリのまま受け止めた。

惚れるもんか。
絶対に。
誰かの代わりなんて御免だ。

・・って勃ってんじゃねえよ俺。
クソ。負けねえ。

唇を離すと、翠の瞳は問いかけるように俺を覗き込んだ。
「つれないなあ。なんか。」
「朝からやってんじゃねーや。寺行くんだろ。出んぞ。」

神様、どうか勃っちまったのがバレませんように。
おれはそそくさとヤツの脇をすり抜けて先に戸口へと向かった。


俺がかなうわけない。
永遠に。
相手は死んだ女だぞ。
どうすんだよ俺。
ずっとこんな生殺しにされてんのか?。

クソ坊主に言われた言葉が頭の中で渦巻いた。
だけど今更やっぱり出て行けなんて言えるか。
それに出て行って欲しいわけでもないような気もする。
どうなんだろ。
なんか頭痛くなってきたもう。


- 続 -

 


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