続きです。





「でも珍しいですね。
三蔵がわざわざこっちまで足を運んでくれるなんて。」

俺らは台所のテーブルを囲んで八戒の入れた茶を啜った。
ヤツときたら何事も無かったかのように振舞いやがる。
今俺を殺しかけたくせによ。

「俺は別に茶を飲みに来たわけじゃねーぞ。」
「じゃ、何か作ります?。」
「うん!。作って!。」
「それも違う。」

お前らもだよ。
ひとんちで和みやがって。

「オイ、悟浄。お前明日、寺に顔出せ。」
「俺?。」
「そんで、寺の坊主に詫び入れろ。」
「なんで。」
「・・やっぱり知らねえんだな。」
美人が対面から俺を見下しては溜息を漏らした。

「お前は指名手配中だ。」
「何で!!!。」
俺は立ち上がって思わずテーブルを叩いた。
何でこうも俺には理不尽な罪が降りかかるのか。
急に立ったもんだから椅子が後ろにブッ飛んでデカイ音を立てた。

「お前、先週寺ブチ壊して坊主ども蹴散らしてっただろうが!。」
「悟浄!。そんなことしたんですか!。」
「するかよ!。」
「しただろうが!。」

そうだっけ?。
・・ああ。
「したかも。」

「何でそんな事するんですか!。」
なんでだっけ。
・・って、そもそもはお前だよ八戒!。

「俺は!。俺はそのヘン叩いただけだ!。そしたらいろいろ壊れやがって!。
で、帰ろうと思ったら坊主がまとわりついてきたから適当に散らしただけだ!。」
「・・充分だと思わねえか?。」
「そ、そうかな?。」
「まったくあなたって人は・・。」
コラ。お前が言うなお前が!。

「手配書はそろそろこの街にも着くだろ。
貴様ほど目立つ男もいないからな、すぐに役人が来る。
それ自体俺は一向に構わんが、そんでお前が役人蹴散らして怪我させたりしてみろ。
俺に確保令が下る。」

三蔵はズズっと音を立てて茶をすすった。
「面倒なんだよ。早いとこ顔出して詫びとけ。
お前もだ八戒。一緒に顔を出せ。」
「僕は関係ないです。」
「あるだろーが。バカが。考えろ。」
「・・いーよ俺ひとりで行くよ・・。」
「喧嘩っ早い男が一人で来てもどうせ同じ事繰り返すだろ。二人して来い。」

八戒の野郎は恭しく三蔵に頭を下げた。
「わかりました。」
俺はなにか?、保護者同伴じゃねーと動けないガキか?。

「用はそれだけだ。帰んぞ、悟空。」
「えっ、まだメシ食ってないのに!。」
三蔵はさっさと立ち上がっては戸口へと向かった。
文句をつけながらも悟空はその背を追った。
真っ直ぐ帰るはずの男は何かを思い出したように立ち止まると、振り向いては聞いた。

「そういや八戒、お前何でまだココに居る?。」

その質問はなんつーかその、
ある種の物事の核心を突いていた。
ふと返り見た八戒の表情に、取り繕った笑いが消えるのを俺は見た。
でもそれは一瞬の事で、
ヤツは即座にソツのない綺麗な微笑で感情を覆い尽くした。

「ええと。悟浄がここに居てくれって言うもんですから。」
ね、とヤツに笑いかけられ、俺はバツの悪さにボリボリと頭を掻いた。
「ま、そーゆーこと。」
「そりゃイイ話だな。」
片眉を上げて、三蔵が皮肉っぽく俺に笑った。
ああ。分かってるよ。
どーせバカなの俺は。
「文句あるかよ。」

「イヤ。邪魔したな。」
短い捨て台詞を残して、美人の坊主とサルは去った。
そして後には静寂が残った。

 □□□

俺は室内にヤツと二人きりで取り残された。
ヤツは湯飲みを片付けて、台所でゴソゴソとはじめた。
喧嘩の後のこういう沈黙が俺には耐えられない。
多分ヤツは今後悔している。
そういう事が分かるから尚更だ。

っと、常勤夜勤の俺はもう仕事の時間じゃん。
渡りに船ってヤツだ。
逃げるとも言うか。

「そんじゃ。俺もう仕事だし。出るわ。」
「今日も遅くなるんですか。」

ヤツは見送りにも来ねえで台所から俺に聞いた。
取り繕えない事が分かっているとき、
ヤツは顔を見せない。

「多分ね。」
適当に答えて俺は家を出た。
今は何も考えたくない。

外はもう陽が傾きかけて、辺りは薄く紅に染まり始めていた。

誰かが俺タチを見たら、
俺は浮気モンの薄情な男に見えんのかな。
違うんだよバカ。
むしろ逆なの。
どこがだって?。

教えてやるもんか。クソ。

最近の溜まり場までの短い道のりを、俺はハイライトをくわえながら歩いた。
髪を梳く向かい風はいつもより冷たかった。


- 続 -

 


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