最終章。




「ガキの頃さー、風邪引くとこわかったなー。」

病人のわりに彼は寝付きが悪くて、
僕が食事を運んだり額のタオルを替えたりしている間、
ベッドで天井を見上げながら一人で話し続けた。

「オレんち適当だったからさー。
かあちゃん男ん家泊まりこんだり兄貴友達ん家連泊してたりさー。
まあ俺も普段は家出してたんだけど。」

「枕のタオルも替えときましょ。ちょっと頭あげて。」
「ん。」

「で、すごくたまに俺が寝込むじゃん。で、誰もいなくて、
もしこのまま誰も帰って来なくて、俺動けないくらい熱出たら、
そのまま死んじゃうのかなーなんてさー。」

「良かったですね。」
「ん?」
「もうそんな心配要りませんから。」

あなたをひとりになんかしない。
「ずっと僕がいますから。」


「・・いーの?、俺で。」
「ええ。」
「気が多いぜ、俺は。」
「矯正します。」
「無理。」
「します。」
「無理。」
「僕を甘く見ない方がいいです。」
「ム・リ!。」

彼と少し睨み合ったあと、仕方のないやり取りに僕はふと笑った。
そう、そのとききっと僕は、とても自然に笑ったに違いない。
彼の柔らかな安堵の表情がそれを教えた。


血の色にも似た紅の瞳は
例え自分が病の床にあっても
こんなにも他人の幸福に敏感で、
だから僕はあなたの元でだけ、息ができるに違いない。

あなたを守りたいと思う。

だけどそれはきっと言葉にする必要なんかなくて、
これからの月日で示していければいい。

「何?。」
「・・いえ。」

あなたに出会えて良かった。


END.

 

最後までおつきあいありがとうございました!。

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