Investigator 〜 保険調査員8


 四日



 桃源調査室の朝は早い。
 八時四十五分の段階でいつもの不味(まず)いコーヒーが出来上がり、五十分にはマグカップ片手に日経を繰(く)り始める。取り立てて読むべき箇所が無いのもいつも通りだと思うと、それなりの充実感がある。
 ブラインド越しの朝日も爽やかな調査室で秀蔵はひとり紙面を繰った。
 吾一は会議用デスクの隅でメダカに見入っている。平穏な朝だった。
 あんなこんなの翌日くらい仕事を休んでも良さそうなものだが、今ここにいないあと二名の事を、秀蔵は多少気にかけていた。

 前日は研究所に警察と消防が駆けつけた時点で、面倒を避けるため早々に引き上げた。秀蔵は吾一を連れて自宅マンションへ戻ったわけだが、その後二人がどうしたかは知らない。後になってみれば、彼らに一言「ご苦労」くらいの言葉をかけるべきだったかとも思えた。今日言えばいいわけだが、それも彼らがここを訪れればの話だ。丈には再三来るなと言った記憶があるし、戒爾に至っては秀蔵に猥褻行為(?)をはたらいた後に調査室から姿を消していた。今更顔を出すだろうか。
 それに秀蔵自身はと言えば、何を辞めたのか不明なまま観世に辞表を送り付けている。もしかすると保険屋を辞めたのかもしれないが、今更「俺は何を辞めた」と確認するのは避けたかった。
 しかし秀蔵の複雑な心中とは裏腹に、九時ちょうど、調査室のドアは丈に蹴り開けられた。
 ドアを開けるのに丈が何故手を使わないかというと、脇に戒爾を引きずっているせいだ。
「グッモーニン秀蔵。お。今日はおサルちゃんもいるね。」
「おはよう!、戒ちゃん!。」
「コラ。俺は。」
「丈もおはよう。」
「ついでかよ。」
 来るなり戒爾は応接用のソファに倒れ込んだ。過去の経緯からすれば、戒爾はこれから五分以上十分未満その場所で寝る事になる。丈も吾一もそれを心得ているから特に気にする様子は無い。来るなり寝るのはやはり違うだろうと秀蔵だけが思っていたが、文句を言うにも相手は現在意識すら薄い。
「なあ、丈。見る?、メダカ。」
 自分の宝物を見せびらかす子供の純真さで吾一が丈を呼んだ。少年の宝物がメダカというのもいささか不憫(ふびん)な感じがしないでもない。
「メダカなんて珍しくねーし。」
「めずらしーよ。このメダカ、世界で一番丸いんだぜ!!。」
「・・それってどう。」
「スゲーよ絶対!。それにこいつら、俺が最後に見た時より丸くなってんだ!。」
「・・。」
 かつて吾一が姿を消した少し後に戒爾も消えた。丈はその後も調査室に足を運んだが、そんなにメダカに餌を捲(ま)いた覚えは無いと当人が記憶しているだろう。となれば、必要以上に餌を捲いた人間は特定された事になる。
 水槽の前から言葉もなく凝視してくる丈の視線を肌で感じ、秀蔵は無駄に咳払いを繰り返しながらバサバサと紙面を繰った。
 倒れ込んでから七分三十五秒後に戒爾のスイッチが入った。戒爾は起きあがるなり裏の給湯室に向かい、茶を淹れ始めた。四人分の湯飲みを丸盆に乗せて再登場した後は、三人分を会議用デスクに乗せ、最後の一つを秀蔵のデスクに置くと、秀蔵に整った笑顔を見せた。しかしその髪は後ろが少々寝癖で立っている。
「お早うございます。今日は何から?。」
「それから任せる。」
「?。もう一度、お願いします。」
「何をするかというところから任せる。不満か。」
「いえ。・・分かりました。」
 秀蔵は手にしていたコーヒーのカップを置いて、今戒爾がデスクに置いた湯飲みに持ち替えた。淹れ立ての日本茶の味は悪くない。
「あ、FAX来てます。」
「捨てろ捨てろ。いない間に来た連絡なんざ今見ても手遅れだ。」
「でもこれ仕事の依頼です。送信日は・・昨日。まだ有効な案件じゃないかな。次郎さん経由で依頼元は・・大江戸海上火災。前に仕事くれたところです。僕ちょっと連絡取ってみますね。」
 会議用デスクに乗った電話を取って、戒爾がどこぞと交渉を始めた。丈と吾一はと言えば、未だ水槽の前でメダカ談義中だ。海上火災に直接案件の詳細を問い合わせる戒爾の折り目正しい声の向こうから、丈と吾一の兄弟喧嘩まがいのやり取りが響いた。
「止めとけよもう。それ以上丸くなったら死ぬぞ。」
「そんなことないよ。」
「そんなことないかどうかお前に分かるかよ。お前メダカじゃねーだろサル。」
「じゃあ丈はメダカか?!。」
「あの〜。少し静かにしてもらえませんか。」
「俺のどこが一体メダカに見えるよ!!。」
「うるせーぞお前ら。戒爾が電話中だ。」
「全然メダカじゃないよ丈なんか!。」
「少し静かに・・」
「そーだよメダカじゃねーんだよ俺は。クソ何だっけ。とにかく!。もう餌撒(ま)くの止めろって言ってんの!。食い過ぎは身体に悪いの!。」
「うるせーっってんだろお前ら!。」
「あの少し・・」
「たくさん食べてどっか悪くなんかならない!。」
「だからお前はメダカかよ!!。」
「うるせえんだよ殺すぞ貴様等(ら)!!。」

「黙りなさい!!。」

 戒爾の大音声(だいおんじょう)が周囲の空気を一気に凍り付かせた。丈と吾一に至っては「だるまさんが転んだ」の最中のように身動きすら止めた。受話器での会話を再開した戒爾は多重人格者めいた切り替えの良さで温和な口調に戻ったがその視線は険(けわ)しいままであり、指先だけの指示で丈と吾一に座るべき場所を伝えた。
 廊下に出された生徒の従順さで丈と吾一は会議用デスクの指定された場所に着いたが、その後も囁く声で「お前が」「だって丈が」といがみ合った。


「では今回の案件を説明します。秀蔵、こちらの席に着いてもらえますか。」
 コピーした四人分の資料を配りながら戒爾が秀蔵を呼んだ。丈と吾一の間に秀蔵を座らせるのは二人の喧嘩防止策だろうか。文句を言うのも面倒な秀蔵は黙って指定の位置に着いた。
 ホワイトボードの手前に立った戒爾が、一列に並んで座った三人を見つめた。それから戒爾はふと声を詰まらせた。
「そう言えばこんな風にみんなが揃(そろ)うのって・・」
 泣くのかもしかして戒爾それだけは勘弁してくれという想いに衝(つ)かれ、丈は突発的にヤル気を見せた。机上のプリントを手に取り、読んでもいないのに肯(うなず)いてみたりする。
「お、コレが今日の仕事?、詳しく説明してくれ戒爾。」
「え、ええとですね・・じゃ皆さんも資料の方見てもらえますか。」
 コツさえ掴(つか)めば戒爾も意外にチョロいのかもしれない。秀蔵はそんな感慨を抱きながら資料を手に取った。
「詳細を説明します。そもそもは自動車事故です。大江戸海上火災の被保険者AさんがBさんと事故を起こして査定で揉(も)めて裁判に入ってます。民事ですが。で、Aさんは別会社に事故調査を依頼してその結果報告書を裁判に提出する予定だったんですが、それが盗まれた、という話です。ここまではいいですか。」
「窃盗ならさあ、保険屋じゃなくて警察じゃないの。」
「ええ。それで警察にも相談したらしいんですけど、実際盗まれたのが写真と資料だけとなると被害総額も大した事ないし、裁判も民事で係争中ということで警察も調書取ってあとはおざなりの対応らしいです。それでまだ続きがありまして。」
「おう。」
「盗まれた裁判資料を持ってるから買い取れってBさんからAさんに連絡が入ったという。」
「何それ。犯人はあからさまにBじゃん。」
「ええ。実行犯は違うにしろ状況からしてBの関与は明白です。立件できるかどうかは不明ですけど。つまりこれは裁判を止めろという脅迫でしょう。ちなみにBは一部上場企業の役員を務める大物で総会屋さんにも造詣(ぞうけい)が深いそうで、窃盗の実行犯も何となく想像がつくような。」
「ふうん。またヤクザかあ・・ってオイ秀蔵、お前もなんか反応しとけ。でないと寝てしまうぞ。」
「ほっとけ。」
 今回秀蔵は確かに起きていた。なのに丈の耳には幽かに寝息が届いている。ということは残る人員は一名。椅子の背に後頭部を乗せた吾一が、天井に向けて大きな口を開けて爆睡していた。その有(あ)り様(さま)を丈が戒爾に指摘した。
「・・寝てんぞ。」
「この状況は本来の保険調査の域を外れています。しかし大江戸海上は僕達の前回の仕事を評価したからこそ再度案件を回してくれたわけで」
「戒爾!、吾一が寝てんぞ!。」
「いいじゃないですか。子供なんだし。」
「!。ひいきだ!!。」
 丈は立ち上がって叫んだ。勢いで後ろにひっくり返った椅子が床に当たって大きな音を立てたが、それでも吾一が起きる気配はない。
「じゃいいです。ひいきって事で。」
「何だと!、俺は断固抗議する!!。」
 秀蔵は資料を手の中で丸めると、それをパシっと吾一の額に振り下ろした。
「起きてろ一応。お前が寝ると騒動が増える。」
「・・ん。」
「続けます。それで対応の方針を決めないとなんですが。」
「そりゃアレだろ。俺らんとこに話が来るってことはさあ、もう普通のトコで手詰まりなんだろ。そしたらさあ、俺らのやり方でやるっきゃねーっしょ。軽く痛めつけてみるとかさ。なあ秀蔵。」
 ココが普通ではないという論拠に同意するのもどうかと思われ、秀蔵は曖昧に視線を泳がせた。
「さすがに『痛めつける』のはどうでしょう。僕ら保険屋さんですからね。嘘でも。」
「じゃ他に方法ある?。」
「吾一はどう思います?。」
「なんか盗(と)られてなくなったんだろ。そいつ盗(と)り返せばいいじゃん。」
「同感です。」
「ひいきだ!。」
 またしても丈は立ち上がって叫んだが、戒爾は平常心で続けた。
「まあ遺失物を探す課程でついうっかり暴力沙汰が起こらないとも限りませんけど。」
「やっぱヤるんじゃん・・。」
「その場合、責任追及が依頼元の大江戸海上に及ぶ事が懸念されます。ここはひとつ桃源保険調査室の独自調査ということでいかがですか、秀蔵。今回の件に関しては依頼元も調査課程ではなく結果だけを求めていると思われます。」
 場の視線が秀蔵に注がれた。方向性は決定し、あとはやるかやらないか、それだけだった。面倒と言えば面倒だがやらないことには今日ここに来た意味がない。何やら言うべき事があったような気もするが、そちらはもうどうでも良かった。
「行くぞ。野郎共。」
 立ち上がったかと思うといきなり出かける気配の秀蔵を追って、吾一がすぐ後に従った。普段から手ぶらの丈は頭の後ろで手を組みつつその後に続く。机上の資料を鞄に詰め込んだりと忙しい戒爾だけが遅れをとった。戒爾は三人の後ろを駆けながら、おそらくは資料を全く読んでいない面々に向けて重要事項を叫んだ。
「『B』は田崎敬三、六二歳。都内目黒区の自宅に一人暮らし。妻とは別居中。役員は名義だけで普段は自宅待機らしいです。目黒までどうしましょう六号線で出ます?、僕バイクはダメですよ。聞こえてます?、皆さん!。」


 一時間後、四人は目黒の閑静な住宅街に辿り着いていた。
 目黒通りから細く入り組んだ舗装路を入った奥は、豪邸とは言い兼ねる程度の旧家が立ち並んでいる。たとえ手狭でもこの近辺の一戸建てなら固定資産税だけでも安くないだろう。
 住宅地図が示す通りの位置に田崎敬三の自宅はあった。おそらくは彼の代の建築かと推測される比較的新し目の二階建ては五LDK程度だろうか。一代で荒稼ぎしたらしい。
 屋内から監視される可能性のある玄関先には、先(ま)ず戒爾のみが立った。
「こんにちは。田崎先生はご在宅でしょうか。」
 折り目正しい戒爾の挨拶に、玄関のドアが薄く開いた。
「誰かね?。」
 現れたのは太鼓腹の中年。着流しの和服が多少の貫禄を感じさせない事もない。自分が誰かを言う前に、戒爾はドアの隙間にガツンと靴先を入れた。
「桃源保険調査室から参りました私(わたくし)は井野と申します。それから」
 話が長くなる前に、丈は戒爾の前に割り込んで玄関のドアを押し開け、室内へと踏み込んだ。その後に吾一、秀蔵と続く。
「ちーす。」
「こんにちわあ。」
「な、なんだねキミ達は!。」
 久々に田舎の実家に戻った放蕩(ほうとう)息子の馴れ馴れしさで、丈と吾一は上がりこんでは辺りを見渡した。
「うわ、びっくりした!、シカの剥製(はくせい)だ!。ひっでえ!!。」
「はは。お仲間だもんなサル。そりゃショックだろ。」
「サルって言うな!。」
 早速喧嘩を始めた二人の背後、こちらもいつの間に上がりこんだ戒爾がパンパンと二回手を叩いた。
「ハイ皆さん、ここは応接室のようです。まずは仕事部屋を探しましょう。・・と、こっちは台所ですね。二階かな?。ハイ、じゃ皆さん二階へ。」
「け、警察を呼ぶぞ!。」
「構いませんよ。その場合こちらも事故調査書窃盗の嫌疑で貴方を告訴します。実行犯に示唆したとしても犯罪ですから。」
「証拠がないだろう!。」
「だから探しに来たわけで。」
 二階には確かに事務所めいた一室が存在した。そこで丈、吾一、秀蔵の三人がごそごそと物色を始めていた。しかし調査室自体を整理できない面々が手際良く探し物ができるはずもなく、悪気がなくとも部屋はじきに強盗に押し入られた状態へと変化した。
「オイ、サル。お前何探すか知ってんの?。」
「じこちょうさしょ、だろ。」
「平仮名で書いてあるわけじゃねーんだぞ。漢字読めんのかよ。」
「・・よめない。そう言えば。」
 辺(あた)りを探る手を止めて、丈がゲラゲラと声を上げて笑った。
「気にすることありませんよ吾一。丈は漢字読めても書けませんからね。」
「嘘教えんな戒爾。」
 替わり行く部屋の様子を唖然(あぜん)と見つめいていた着流しかつ太鼓腹の老紳士もじきに正気を取り戻した。机上の電話機に手を伸ばして十桁程度の番号を押すと、牽制のつもりだろうか、彼は家捜(やさが)し中のメンバーにも聞こえる大声で話した。
「俺だ。田崎だ。強盗みたいなのに襲われてる。何だか分からん。若いの四、五名回してくれ。今すぐだ!。」
 田崎が受話器を置くまで待って、戒爾が再びパンパンと二回手を叩いた。
「ハイ、皆さん。これから四、五名の若い方がいらっしゃるようです。お出迎えお願いできますか、丈、吾一。」
「秀蔵は?。」
「秀蔵は・・いいです。彼、すぐ撃つんですもん。」
 田崎の顔面が一気に青ざめた。充分な威嚇(いかく)効果があったようだが、戒爾にしてみれば本音を述べたに過ぎない。
「オレ、三人!。」
「子供は一人で充分よ。」
「じゃあ、丈、競争しようぜ!。」
「野郎!、この俺サマにかなうと思ってんのか?!、見てろよ!。」
 担当すべき割り当て人数で揉めながら、丈と吾一はバタバタと階段を駆け下りて行く。その背に戒爾が念を押した。
「先手はダメですよ皆さん。係争で不利になりますから。あと、絶対殺さないように。」
 事務部屋に残った戒爾と秀蔵は探し物を続行した。じきに階下からは男達の怒号(どごう)が湧き、ドタバタと音のみならず振動までもが響いた。
 バインダーやファイルの束をひっくり返しつつ、秀蔵は丈と吾一を少々羨(うらや)ましく感じ始めていた。探し物など調査室でもやったことがないというのに一体いつまで紙切れを探し続けなければならないのかと思うと、いい加減肚が立ってきた。
 書類の詰まった段ボールの山から腰を上げ、秀蔵は太鼓腹の老紳士の前に立った。
「オイ、『事故調査報告書』とやらはどこか覚えてねえか。」
 相手は民間人であるし、まだ当人を拷問する段階でもないとは承知していた為に、秀蔵は努めて冷静に問いかけた。しかし大嫌いな探し物を担当させられた苛立ちで既に人相は極悪、控えめに言っても険悪だ。おまけに先刻「彼はすぐ撃つ」と戒爾が漏らしたばかりでもあった。
 田崎は無言のまま机上を指した。太めの短い指の先を目で辿れば、さっき彼が使った電話機の脇に、皺(しわ)もない大判の茶封筒が一つ乗っている。そう言えば机の上というのは見え過ぎるせいで逆に探してみなかった。
「・・。」
 戒爾が封筒を手に取った。引き出された中身はと言えば、レポート用紙数枚にわたる事故見分書に加え、添付資料としてのポラロイド写真複数枚。
「さすがです。秀蔵。」
「・・。」
 秀蔵自身は全くさすがだと感じられない。
 戒爾は封筒を自分の鞄にしまい込み、あとは帰る気らしい。戒爾の後に付いて階段を降りながら、秀蔵は煙草をくわえて火を点けた。

「皆さんご苦労様。見つかりましたから。引き上げましょう。」
「おう。こっちも終わったとこ。」
 立ち戻った一階では、玄関から応接室にかけて五人の男が倒れていた。今はただの障害物である男達の体躯を足で押して道を開けたりしつつ、丈と吾一は玄関をくぐった。「オレ四人」「お前は二人だったろ」と今の戦況で喧嘩腰になり立ち止まりがちな丈と吾一の背を戒爾が押した。
 賑(にぎ)やかな三人の後ろ姿を眺めつつ、秀蔵もくわえ煙草で玄関先を出た。深く吸い込んだ紫煙を、何気なく空に向けて吐いてみる。見上げれば、切れ切れの薄い雲の間に昼の陽差しが眩(まばゆ)く覗(のぞ)く。
 今日も晴れていた。

「ま、待て!!。」
 ふとぼんやりしたところを呼ばれたせいで、秀蔵はつい振り返った。残り三人は呼ぶ声に気付かないまま歩き去っていく。玄関の昇り台の上には、精一杯の虚勢を張った御老体が、震えながらに仁王立ちしていた。
「何者だ、貴様!!。」
 気を緩(ゆる)めたところで要所を衝(つ)かれたと言える。その辺は秀蔵自身が未だ不明なままだった。
 言い逃れの台詞も思い付かないまま、秀蔵はもしかすると辞めているかもしれない職業を口にした。

「保険調査員だ。」



続.


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