楽園〜 Marduk


 序章


 この星唯一の刑務所は、北の行政施設から隔離された東地区の奥にあった。
 東地区は、研究施設と化学工場が密集する閉鎖区域だ。何故行政処分の対象者を隔離するのが研究施設の奥なのか訝(いぶか)しがりつつ、三蔵は狭い専用通路を歩いた。施設の配置替えを望むなら、行政上最高の立場にある三蔵はただそれを命じるだけでいい。しかしまあ今更、と三蔵は思う。三蔵が所在を知らない施設は刑務所に限らない。知らされていないわけではなく、知る気が無いだけだ。
 初めて入る刑務所内部は、コンクリートの壁が白で塗り尽くされていた。不自然に真っ白な壁は収容所というより病院を思い出す。しかし通路の両脇に連なる三畳ほどの個室は鉄の檻で通路と区切られており、ここは入院病棟ではないと思い出させてくれる。
 突き当たりの個室への道は廊下自体が鉄格子で遮(さえぎ)られていた。柵の前には受付よろしく小さなデスクが据え置かれ、看守が頬杖を付いていた。寝ているようにも見える。重罪人の区画は面会者も無いから退屈なのだろう。
「この区画の収容者のリストを出せ。」
「・・ん?。」
「死刑囚のみでいい。」
「自警省の制服着てないね?、北の人?、証明書は。」
 どうやらこの国の人間は、国の最高統治者の顔も知らないらしい。この星に現存する国家が他にないことをかんがみれば、この星最高の権力者という事になるというのに。しかし、三蔵が実質的な行政に携わった事がないという事実からすれば、当然かもしれなかった。
 己が誰だという説明を省く為、三蔵はわざとらしい咳払いをしつつ、スーツの衿を軽く直した。仕立ての良いスーツの胸元には、小さな紫の紋章が刺繍されてある。その紋章を許されるのは、神とその係累のみに限られる。現在のこの星に於いては、三蔵とその叔母にあたる観世音の二人だけだ。
「三蔵様?!。」
「現在収容されている死刑囚の一覧。早く。」
「し、失礼しました!。まさかこのような場所に」
「一覧。」
「は!。」
「そんでココ開けろ。」
「直ちに!。」
 手渡された紙は二枚。執行前の死刑囚は現在二名ということらしい。紙に目線を落としながら歩き出した三蔵の前に看守が駆け出し、三蔵の行く手を阻(はば)んでいた鉄格子の施錠を外して、押し開けた。三蔵は手渡された紙片を斜め読みした。罪状と略歴程度が分かればいい。
 管理番号3001、独房901、紅孩児。人民解放軍のリーダー。研究者を装って東施設に潜入中のところを拘束。解放軍への影響を考慮し、極秘裏の簡易裁判で死刑判決。
(「極秘裏の簡易裁判」なんてのがアリか?。)
 あり得ないというよりも、あるべきでない。しかしその前に「極秘裏の簡易裁判」の事実を知らなかった事自体が問題だとも言える。三蔵は具合の悪さを誤魔化して、口の中で小さく舌打ちをした。
 三蔵は通路奥の独房で足を止めた。左右に一部屋ずつの小部屋がある。右の部屋の上には901と書かれたプレートが打ちつけられている。しかし、901号室は無人だ。狭い個室にはベッド以外の家具もなく、隠れる場所も無い。三蔵は定位置に戻った看守に叫んだ。
「オイ、『901』がいねーぞ!。」
「は。主任技師が連行しました。」
「どこへ。」
「研究所かと。」
「何故。」
「実験用かと。」
 死刑囚はどうせ死ぬんだから実験に利用してもいいなどという規則があっただろうか。東地区の暴走は想像以上らしい。さすがに対策を施すべきなのだろうか。面倒な予感に三蔵はこめかみを押さえた。だが押さえて二秒で三蔵はその手を放した。考え直してみれば、三蔵自身がこの場所に訪れた理由も、東地区の発想と大差無かった。三蔵は気を取り直して紙片をめくり、二枚目に目を通した。
 管理番号3002、独房902、猪八戒。西地区の総大司教。解放軍と村民双方を虐殺。裁判では被告が出廷を拒んだ為、被告人不在のまま死刑判決。
 独房上のナンバープレートを目で追いつつ、三蔵はその場で振り向いた。901の正面、902。その小部屋には確かに男の姿があった。横壁に背を付け、軽く膝を抱えるようにして、もう一方の壁を見るともなく眺めている。三蔵に端正な横顔を見せつけるその男は、西地区の司教というには若く、残虐な犯罪者にも見えなかった。
 固い靴音を響かせて独房の前に立った三蔵に気付かないわけでもないだろうが、檻の中の男は気配を消した静謐(せいひつ)さで壁に向かったままだ。男の視線を捉え損ねたまま、三蔵が切り出した。
「玄奘三蔵だ。」
「この国の最高統治者と同性同名ですね。」
「てか俺だ。」
「へえ。」
 男は白い壁を漠然と見つめたままだ。最高統治者に敬意を表する事もなく、軽蔑するでもない。それ以前に視線すら上げようとしない。
「貴様と取引に来た。」
「僕は取引できるようなもの持ってませんし。」
「俺は内偵の同伴者を探している。危険が伴う為、死んでも差し支え無い者が望ましい。」
「・・。」
「死刑囚の貴様なら適役だと思わんか。」
 同意しかねる、という意思表示だろうか、男は白い壁を眺めたままで僅(わず)かに首を傾げた。
 反乱軍の内情調査は最高神である観世音からの指示だった。内政に全く干渉しない最高統治者を見かねた観世音が、直々に三蔵へと厳命を下した。しかも単独行動禁止という条件付きだ。普通に指示に従うのなら、自警省から腕の立つ者数名を引き抜いて特殊班を作り、調査に同行させればいい。しかし、連れを増やすということはすなわち、守るべき人間が増えるということでもある。逆に動きづらい。守らなくてもいいような人間はいないだろうかとぼんやり考えると、妙案が閃いた。どうせ死ぬ人間なら、適役だろう。
「貴様を俺の忠実な部下に任命する。」
「お断りします。僕、静かに死ぬ予定なんで。」
「報酬として、任務遂行後には恩赦を与える。」
「結構です。お断りします。」
 白壁を眺めたまま振り向きもしない男の横顔を凝視して、三蔵は自分のこめかみを揉んだ。死刑を無い事にしてやるというのに「結構です」とは、想定外の回答だった。目の前の男が稀代の引き抜きを断るというのなら、それはそれで別の人間に声をかければいい。しかし先に声をかけるはずだった紅孩児は東地区の技師が連れ去ったらしいし、現時点で彼以外に死刑囚はいない。
「コラ。」
 苛立ち混じりに三蔵は鉄格子を蹴り付けた。固い靴底が鋼鉄の柵を叩き、密閉空間である所内に金属音を響かせた。しかし耳元で上がった暴力的なノイズにも、男は動揺を見せなかった。
「何が望みだ。」
 譲歩しよう、と、三蔵はそんな気分になった。
 死にかかった人間に再度生きる権利を与えるというのは、普通に考えれば至上の報酬だ。しかし、目前の男はそれを欲しない。一体何ならこの男の心を動かす事ができるのか。今まで感じたことのない好奇心が、秀蔵の心をを掻き立てた。
「他に何を望む。」
「特に何も。」
「貴様の条件を全面的に呑む。無罪放免の他に、望む事を言え。」
「僕の要望は一つです。貴方、早くここから」
 ここから立ち去ってくれませんか。
 最後まで聞くまでもなく、男が言わんとした内容には想像がついた。だが、彼は最後まで言わなかった。
 やかましい訪問者を立ち去らせるべく振り向いた男の視線が三蔵を捉えた。探るように視線を絡ませて、男は通路と独房を隔てる鉄格子を握った。深い翠の瞳が、三蔵を見据えていた。少し驚いたように見開かれた明るい翠に引き寄せられて、三蔵も無意識に彼を見つめていた。長いこと会えなかった誰かに、ようやく巡り会ったみたいに。
 ふと脳裏に浮かんだ馬鹿馬鹿しい想いを、三蔵は苦々しく振り払った。目の前の死刑囚が三蔵の想い人であるはずもない。大体が彼に会うのは今日が初めてだし、それ以上にかつて想い人がいた事もない。だから、それが一体どんな気分なのかを知るはずもない。
「望むものを言っていいんですね?。」
「ああ。」 
 翠の瞳が微かにひそめられた。三蔵にふと良くない予感が過ぎった。多少の条件はつけてしかるべきかもしれないなどと今更ながら思い直し、三蔵は無駄に咳払いをした。
「悪いが、人民の安全と健康を脅(おびやか)すこと以外、と条件をつける。つまり、誰それを殺せとかそういうのには応じられん。あとはまあ、いいとする。」
「それは良かった。」
 夢を見るように柔らかく、檻の向こうの男が微笑んだ。端正な容貌の癒し系スマイルだが、何かの前兆のように三蔵の背には悪寒が走った。
「貴方を。」
 三蔵は聞こえなかったフリをした。
 咄嗟に何も聞かなかった事にして、この場から立ち去る事を考えた。しかしそれを行動に移す前に、男の言葉が畳み掛けていた。
「僕が望むのは、貴方です。」

 柔らかな微笑みを湛(たた)えたままで、男は三蔵に小首を傾げて見せた。何かを問いかけるようなその挙動は、三蔵には挑発と取れた。「『何でも』なんて言っても、結局自分が可愛い貴方は、貴方自身を差し出すことなんてできない」。男が本当にそう考えたかどうかは分からない。しかし三蔵の脳裏に響いた声が自分のものだろうが彼のものだろうが、もしこの場から逃げ出せば、その声の言う通りだと三蔵自身に証明することになる。逃げるわけにはいかなかった。
「いいだろう。」
 半分はヤケクソだった。
 否、半分以上、九割九分ヤケクソだ。残りの一分は何なんだと問われるなら、十割と言ってもいい。
「取引は成立だ。出ろ。オイ、看守!!。ココ開けろ!。」
 少し離れた定位置の受付では、急に呼ばれた看守が「え」と驚きの声を上げた。
「いいか、貴様はまず東地区のラボに行け。そこでちょっとしたブツを体内に仕込んでもらう。貴様が契約に反すれば即死するような仕掛けだが、サイズ的には片胸を覆う程度だ。傷が消えれば外から見たら分からんようになる。終わったら執務室へ来い。移動は官僚用のヘリを使え。関係省庁に話は通しておく。行け。以上。」



 本章 1


「オーダー入りまーす。青椒牛肉(チンジャオロース)と回鍋肉片(ホイコーロー)、小ライス付きで。」
「ねーちゃん、ライスは炒飯(チャーハン)ね。」
「小ライスは炒飯でーす。」
 店内のオーダーに忙しく駆け回る八百鼡からのオーダーに、厨房の慈燕は「オウ」と叫んだ。中華鍋の中味を掻き回している最中でも、オーダーの声は聞き逃さない。この店で注文が紙に記される事はない。言われた順に慈燕の頭にストックされる。それは慈燕の記憶力が確かなせいもあるが、それ以上に人手が足りないせいだ。
 場末の飯場(はんば)は年中労働者で溢れかえり、たったひとりのウェイトレスである八百鼡は朝から晩まで客席の間を走り回っている。妹の李厘も気紛れで手伝いはするものの、彼女はまだまだ遊びたい盛りの子供で、客の連れの子供と喧嘩して八百鼡の仕事を増やす事も少なくない。
「おねーちゃーん、ビールまだー?。」
「ハイ、ただいま!。」
「おねーちゃーん、会計。」
「ハイ!。李厘、おじさんのビールお願いできる?。」
「はーい。」
 店内は厨房の火と客席のひといきれで、むせ返るような熱気に満ちている。この店のメインと客層といえる働き盛りの肉体労働者達は、昼間から酒も飲むし煙草も欠かさない。客席には煙草の煙が充満し、ろれつの回らくなった男が意味不明の言葉を叫んでいる。決して品のいい店とは言えない。しかし南地区の中でも南側にあたる炭坑付近ではこの店以外に飲食店と呼べるような店はなく、この薄汚れた中華屋が労働者達唯一の憩いの場となっていた。
 店内には四人掛けの丸テーブルが十脚程。それぞれの台に筋骨逞しい労働者が数人づつ、薄汚れたランニング姿で陣取り、飯をかき込んでいる。しかしフロアの端、厨房手前に据え置かれたテーブルは、他の客席と多少違う様相を呈していた。
 壁に背を向けて座る赤い長髪の男は、くわえ煙草でカードを広げている。テーブルの上には灰皿がわりの空き缶と、飲みかけのバーボンのグラスのみ。食事に訪れたようには見えない。
 慌ただしく熱気に満ちた店内の空気からは少々かけ離れた厨房手前の一画に、忙しすぎて機嫌が悪くなりかけの李厘が乗り込んだ。
「悟浄!、アンタも手伝え!。」
「お断り。」
「みんな働いてるでしょ!。」
「俺も別なことで働いてんでしょ。」
「ケチ!。」
「そ。ケチなの俺。」
「こいつー!!。」
「李厘、やめなさい!。」
 長髪の大男に挑みかかった無鉄砲な妹を案じ、八百鼡が駆け寄って李厘の身体を後ろから抱いた。
「李厘ちゃん、あなたは自分のしごとをなさい。」
「だって!。」
「お願いよ。ね。」
 女の子と言うよりは悪ガキめいた李厘だが、優しくて働き者の姉にだけは逆らえない。一度ふくれっ面をみせて、壁際の長髪に「バーカ」と捨て台詞を残したあと、李厘はオーダーを取りに一般のテーブル席へと立ち去った。
「ごめんなさいね。悟浄さん。」
「イヤ別に。」
「いつも忙しいからあの娘も気が立っちゃって。」
「忙しすぎだよな。確かに。」
「だから・・いつものお願いなんですけど。」
「え。」
「隣の子供達、見てきてくれないかしら。」
「・・。」
 お願い、と、八百鼡は両手を合わせて少々腰を折った。男の鼻先すぐに、八百鼡のふくよかな胸元の谷間があらわになっていた。長髪の男は視線を泳がせて、鼻の下を掻いてみたりする。悟浄が挙動不審になるその理由について、天真爛漫というか多少抜けているところのある八百鼡が気付く事はない。
「ね。お願い。」
「・・じゃちょっと見てくる。」

 ◇◇◇

(兄貴の野郎。)
 隣の子供達をみてくるという大役を仰せつかった悟浄は、店を出るなり慈燕を心で罵(ののし)った。八百鼡の依頼を断りきれないのは男の本能として拭い去れない己(おのれ)の下心のせいだが、それを責めても仕方がないので兄貴にヤツ当たってみたりするわけだ。しかしそのヤツ当たりにも全く根拠が無いとも言い切れない。元は兄弟の住居だった隣の一軒家を開放して孤児院まがいの施設にしたのは兄の慈燕の一存だ。おかげで悟浄は飯場(はんば)向こう隣の小屋へと引っ越す羽目になった。
 炭坑近辺は土地が安く、誰の所有かもよく分からないような状態だから、元の住居だった孤児院も今の住居である掘っ立て小屋もそれなりにスペースはある。しかし広ければいいというものでもない。悟浄が引っ越した木造平屋建ては、広すぎる窓から容赦なく直射日光が差し込む上に、天井からは雨も漏る。風の強い日なら窓枠が飛ぶ。いずれは屋根も飛ぶだろうと悟浄は思っている。
 当の慈燕は飯場の二階を寝処としている。雨が漏らず窓枠も飛ばない分、そちらの方が幾分マシだ。「お前もこっちで暮らせ」とは何度も言われたが、いい歳をして兄貴と同じ部屋というのはどうにも気詰まりだった。それに半年前からは、八百鼡と李厘が居ついている。広さはあるにしろ仕切りの無い二階の一室で、あの姉妹と慈燕がどうやって暮らすのかと悟浄は不審に思っていたが、八百鼡に確認したところ、「悟浄さんのところで寝てるんじゃないの?」という返事だった。どうやら慈燕は一階のフロアもしくは厨房で寝ているらしい。
 ここ南地区の飯場に八百鼡と李厘が初めて姿を見せたのが約半年前。紅孩児と名乗る色黒のイケメンが二人を同伴して来た。本人の弁に依(よ)れば、紅孩児は地球からの移民者の末裔らしい。つまり『神の系譜』ということだ。しかし神の末裔を自称する者はそこここに溢れている。真偽の程は不明。紅孩児は多少の異能力を携(たずさ)えていたらしいが、悟浄がそれを確認したわけではない。見せろと言えば奇蹟と呼べるような現象を呼びおこしたのかもしれないが、悟浄にとってそれはどうでもいいことだった。
 紅孩児は人民解放軍のリーダーとして、同胞を集める旅の途中だった。「政府及び自治省が隠し持つ『地球』の情報を開示させ、人民を地上の楽園、地球へと導く」。紅孩児の壮大な夢に慈燕が熱くなった。しかし悟浄に言わせればそれは夢というより妄想だ。この地で古くから語り継がれる『地球』という楽園は、おとぎ話の竜宮城のような存在で、知らない者はいないが実際に見た者もいない。
 夢か妄想かはともかく、慈燕が紅孩児を強く支持した事によって、飯場は人民解放軍の隠れ家となった。紅孩児は慈燕の飯場を拠点として活動に専念した。それから半年後の今、労働者階級のほとんどが人民解放軍のメンバーとなった。生活に追われて活動に参加できない者も多数存在するが、心情的には労働者の誰しもが紅孩児を支持している。行政処分を恐れて解放軍の名を公にしない者達すらも、内心は紅孩児に期待をよせている。
 この地は、大雑把に言えば十字架のような地形だ。南北に延びた土地とそれより幾分短く東西に延びた土地が、中央よりやや北寄りの位置でクロスする。最北におわしますのは観世音と名乗る『神』。しかしこの神が人民に何かを施(ほどこ)したという実績は無く、『神』は今や単に象徴的な存在としてその名を留めるに過ぎない。本当に存在するのかも怪しいが、もし存在しなかったとしても人民に差し障りは無い。そのいるのかいないのか良く分からない『神』を守るかのように、北部には行政施設が林立し、自警省が幅をきかせている。
 それに対して東地区は全体が鬱蒼とした森に覆われている。研究開発機関はこの地区に密集しているという噂だが、森の奥に果たして近代的な施設が存在するのかは謎のままだ。いずれにしろ人口は少ないと思われる。時折この地区の空だけが黄緑に染まったり、東の海から魚の死骸が大量に流れ着いたりする。何かがあるのは確実なようだが、あるにしてもロクなものでないに違いなく、誰もが東地区には近寄ろうとしない。
 東とは対照的に、西は長閑(のどか)な農村地帯だ。住民は痩せた土地に幾ばくかの穀物を栽培し、足りない分は海からの恵みで補う。遠洋漁業の技術はないから漁は近海に限られるが、農作物が不作でも飢えて死ぬ心配はない。またこの地区には古くからの宗教が根付いており、土地の者は司祭と呼ばれる宗教上の長(おさ)に統率される。司祭は世襲制らしい。宗教と言っても「困っている人がいたら助けましょう」的な教示を受け入れる程度の、極めて穏健な宗派だ。そもそもは基督教という地球由来の宗教らしい。その真偽の程は不明だが、西の民自身は地球の教えを引き継いでいるのだというロマンを少なからず抱いている。
 南北に長い土地と東西に短い土地が交差する部分には、繁華街とオフィス街が混在している。昼は金融街、夜は歓楽街と言えばより適切かもしれない。メディア関連や教育施設もこの地区に集結している。具体的には新聞社や雑誌編集部、各種専門学校等々。庶民間の情報共有手段は未だ紙媒体が有力だ。映像と音声を同時に電波でやり取りする機器が存在するらしいという話はあるが、実際に見た者は少ない。人民解放軍間の情報伝達も口伝と無線が主な手段となっている。
 そして大陸四塊中で一番の長い辺である南地区には、肉体労働者が群れている。南に下る程仕事の内容は厳しい。四地区の交差部に近い部分には、運搬、清掃系の軽労働者が住み、それより南に下ると工場地帯となる。鉱山から掘削された原石から金属部を抽出加工するといった基礎加工の工場にはどこにも大型のベルトコンベアーがしつらえてあるが、それは原石がベルトコンベアーで流されるというだけの事であり、溶解や粉砕のタイミングは人間依存のままだ。しかも粉砕用の重機機や溶解用の高炉、反射炉は頻繁に故障する。ベルトコンベアーまでがよく止まる。だから工場の人間は日がな広い敷地内を走り回り、工場の機械を直すのを主な日課としている。
 南側の南端は山岳地帯であり、同時に鉱物採集場でもある。石炭、鉄鉱石、亜鉛といった比較的豊富な資源は採掘も容易で、発破で粉砕した山肌を直接工場へ運送するルートが出来上がっている。しかし高値の付く稀少鉱物は大型車両が入り込めない奥地で発掘されることが多く、一攫千金を夢見る低所得者は山岳部奥地に入り込む。ここから先の地図は無いという採掘場南端に、慈燕の飯場は位置している。
 この十文字の大陸は、南半球に位置している。つまり、北の方が気候は温暖で過ごしやすい。南側は気候、地形、経済と、あらゆる意味で過酷だ。
 その南側の過酷さに、ここ数年拍車がかかっている。経済白書を読んだわけではなく、単なる悟浄の主観だが、おそらく間違ってはいないだろう。その証拠に隣の孤児院の収容人数は二年間で二倍になった。現在、下は三才、上は九才までの十二人が押し合いへし合い暮らしている。もはや元の家主である悟浄や慈燕が仮眠をとるスペースも無い。

(『母なる地球』かあ。)
 飯場に隣接する元自宅へと足を向けながら、悟浄は見たこともない希望の星を思ってみる。そこがそんなにいい場所だというなら、行ってみたい気もする。人々が解放軍に抱く夢も分からない事も無い。
(・・だけどなあ。)
 どこだって同じなんじゃないかと、そんな気もしないこともない。正直なところ、その想いの方が強い。
 元自宅の前庭では三歳以上九才未満の子供が十名以下、走ったり転んだりしながら、笑ったり怒ったりしていた。悟浄には見慣れた光景だ。いつもより少し数が少ない気がして、上下左右を見回すと、玄関脇の木上に動く影が二つ程。危ないから登るなとは言った記憶はあるが、ガキが言ってきくようなら苦労は無い。
「あっ!、ごじょー。」
「ごじょーだ!。」
 遊ぼ、遊ぼう、と走り寄った子にズボンの裾を引かれ、下着ごと引きずり下ろされかけたズボンを引き上げながら悟浄は声を張り上げた。
「点呼(てんこ)を取ーる!。」
「え〜。」
「いいか!。」
「よくな〜い。」
「番号!!。」
 悟浄の掛け声を皮切りに、悟浄の足元、遠くの砂場、はたまた木の上から、「いち」「に」「さん」と続けて声が上がった。誰が何番というのは決まっている。順番に番号を言わせれば一人ずつ存在を確認する手間が省ける。悟浄が編み出した「ガキんちょ管理法」だ。しかし鳥並みに三歩歩いたら忘れる腕白(わんぱく)共(ども)にそれぞれの番号を覚えさせるのに半年、順番に番号を言わせるまでに更に半年を費やしていた。足かけ二年だ。連綿と続く点呼の声を聞く悟浄の胸にはかつての苦労が甦る。穴に落とされたり背中に落書きされたり長髪を編み込まれたりと散々だった日々。
 ドミノ倒しの駒が最後の一片を倒し終えるように、点呼は「十二」で終結するはずだった。しかし、「十」の声を最後に、点呼リレーは途切れた。
「おーい、十一!!。」
 叫ばれるべき番号を自分で叫びつつ、悟浄は辺りを見回した。「十一」はどの子だったろうか。
(あ。)
 そういえば「十一」は孤児院最年長の双子の片割れ、金閣だった。彼は子供ながらにして解放軍と行動を共にして、今は西地区へと遠征中だった。
「十一は欠番中!。次!!。」
 次は弟の銀閣。弟の方は遠征軍には加わらず、この施設で兄の帰りを待っていたはずだ。
「おーい。十二。」
 汗と涙のリレー点呼法は結局完結することなく、悟浄は自分で最後の番号を叫びながら銀閣の姿を探した。庭先、木の上にはいないようだ。屋内に土足のまま入り込んでみてもやはり彼の姿は無い。
「お〜い。銀閣〜。」
 結局名を呼んで庭先の置物の影を覗き込んだりする悟浄のズボンの裾に、ガキんちょ達がまとわりついた。またしても下着ごとズボンを引かれ、臍の下まで引き下がったズボンを子供との綱引きまがいに引き上げながら、悟浄は裏庭に回った。
「銀閣!。」
 遙か遠くの草むらに倒れ込む小さな人影が見えた。ズボンの裾にまとわりついたガキんちょ達を怪我させない程度に振り払い、悟浄は足首まで生い茂る草地を駆けた。
「銀閣!!。」
 横たわる小さな人影に悟浄の声が届いたらしい。病人のように草むらに身を潜めた子供の顔だけが、悟浄を振り仰いだ。あどけなさを残す輪郭に澄んだ大きな瞳。銀閣に間違いない。見た目だけで言うなら金閣の方かもしれないが、彼は遠征中で留守だから銀閣で正解だろう。
「じゅうに。」
「なんだよもう。」
 銀閣の元気が無いのは見るからにだが、特に具合が悪いということでもないらしい。安堵を照れ隠して、悟浄は腰をかがめて銀閣の頭から額を掻き回すように撫でた。切りそろえられた癖の無い髪を、敢えてグシャグシャにセットされた銀閣は、ちょっとだけ眉根を寄せてみせた。そんな銀閣を笑って、悟浄は少年の隣に腰をおろした。位置が低くなった分、草の香りが強く感じられる。
「西に行った人たちから連絡は?。」
「まだらしい。」
「・・そう。」
 解放軍が西へ出向いてから二十日以上が過ぎていた。陸路を取れば最南端のこの地から西の果てまでは一週間程度。既に帰路についているのなら、南地区全体と中央区に潜伏する同志から中継で無線報告が入ってもいい頃だ。
「なんか・・あったのかな。」
「あるはずねーよ。」
「なんで?。」
「ヤツらは『創世記』とやらを探しに行ったんだ。『あるんなら見せてくれ』って西の司祭に頼みに行っただけで、力ずくで奪うつもりで行ったわけでもねーし。」
「だよね。」
「噂だと今の代の司祭はおまえらと一緒で双子らしーぞ。」
「そーなの?。」
「そう聞いたよーな気がしただけ。八百鼡ちゃんから。俺は良く分かんねえ。」
「なんだ。」
 二人の会話の意味は薄い。しかしそんな内容の無い会話が、塞(ふさ)いだ銀閣の心を少しでも晴らす足しになることを悟浄は望んでいた。
「なあ、銀。『創世記』って何。」
「知らないの?!。」
「知らねえ。」
 悟浄はダメだなあ、というように、銀閣は大人びた溜息を漏らした。
「地球から来た神様が初めてこの星に降りてからの事が書いてあるんだよ。この星が新しく創造されるまでの出来事が記されてるって。だから『創世記』って言うんだ。」
「へえ。」
「スゴイだろ?。」
「でもさ〜、そんな昔の事知ってどうすんの。分かっても『ああそうですか』って言うだけじゃん。」
「地球に行く方法が書いてあるかもしれないだろ!。」
「はあ。」
「僕達の父さんと母さんは、きっと地球にいる。」
 そりゃ単なる思い込みだ、と、喉元まで出かかった台詞を悟浄は呑み込んだ。
「僕も金閣と一緒に西に行けば良かった。」
「何で。」
「イヤな予感がするんだ。」
 すぐには言葉を返せずに、悟浄はポケットの煙草を探ってはくわえた。両親が地球で待っているという妄想はともかく、『イヤな予感』の方は侮(あなど)れない。以前銀閣は迷子になった金閣の居場所を言い当てたことがある。双子故だろうか、二人が見えない何かでつながっているらしいという事は、飯場では周知の事実だった。
 地球からこの地に降り立った者達は皆多かれ少なかれ異能力を身につけていたという。神々の中には古くからの民と交わるものもあり、神の血を継いで産まれた者達はその能力も継ぐと伝えられている。おそらく双子の能力に気付いた大人の誰かが、お前達は地球の系譜に違いないとかなんとか知識をつけたのだろう。そして二人は両親が地球で待つという妄想を抱いたのに違いない。それはともかく、問題は『イヤな予感』の方だ。銀閣の予感が正しいとすれば、西に向かった解放軍一行になんらかの異変があった事になる。実際、出発の日から二十日を過ぎた今も、連絡は途絶えたままだ。
「カミサマが金閣を見ててくれるって言ったんだけど。」
「神様って北のカミサマか?。」
「違うよ。白い服の子供。僕らよりは年上だけど。」
「んなヤツこの辺で見ねーぞ?。」
「カミサマは出たり消えたりできるんだ。」
「・・。」
 胸の奥まで吸い込んだ煙草の煙を、悟浄は青い空に向けて細く吐いた。話の内容が妄想めいてきたことに、悟浄はむしろ安心していた。子供とはそもそも現実と想像世界の区別がつかない生き物だ。銀閣の『イヤな予感』も、金閣の身を案じた少年の不安定な心が作り上げた妄想かもしれない。
「ま、も少し待っとこーぜ。」
 柔らかな風に吹かれて梳(す)き直された銀閣の前髪付近を、悟浄は再度無骨に撫で付けた。
「そのうち平気な顔して帰ってくるよ。ひとりで東に出かけた紅孩児も、西に行ったヤツらもさ。」
「・・ん。」
「あんま心配すっとバカみっぞ。」
「ん。」

「悟浄さーん。」
 呼ぶ声に引かれて草の上で振り返れば、元住居の庭先付近から、手を振って駆け寄る女性の姿がある。八百鼡だろう。この南端の地には彼女以外に女性らしいシルエットは存在しない。
「な、悟浄、カミサマの話、内緒だからな。」
「お、おう。」
「絶対だぞ。悟浄にだけ話したんだから。」
「おう。」
「男同士の約束だぞ。」
 立ったら自分の腰下くらいの少年に「男同士の約束」と念を押されて違和感を感じないと言えば嘘だ。しかし悟浄は銀閣を見つめて、必要以上に大きく肯いてみせた。こういう場面で笑ったりすると少年は傷つくものだと、まだそう遠くない過去に少年だった悟浄は心得ていた。
「おう。男同士の約束だ。」
 悟浄の答えに安心したのか銀閣はようやく微笑んだ。それから彼は突然立ち上がり、駆け出した。走り寄る八百鼡から逃げるような挙動は、あまりにも女性的な彼女のラインが照れくさいせいだろうかなどと悟浄は勘ぐってみるが、そんな事を思うのは下心のある男だけだ。
「ちゃんとこっち見に来てくれてたのね、悟浄さん。」
「まーね。」
「戻ってこないから逃げちゃったのかと思って来てみたんだけど。」
「ひでーなそれは。」
 ごめんなさいね、と明るく笑って、八百鼡は悟浄の脇に腰を下ろした。
「店は?。」
「ようやく空席もできてきたところ。」
 悟浄と並んで草の上に直接腰を下ろした八百鼡を見やれば、彼女よりは背も高く座高も高い悟浄の視点からは、またしても豊満な胸の谷間があらわになっていた。
(クソ。)
 感情的な比喩ではなくて実質的に、手に届く場所にあるのに触れられない何物か。勝手に触れれば犯罪だ。口説いてから触ればいいわけだが、彼女が紅孩児に惚れ抜いていることを知っている以上、その気にもなれない。官能的な曲線から目線を振り切る為に、悟浄は草地に寝転んだ。
 見上げた空は果てしなく青く、真っ白な雲が千切れた綿飴のように浮かぶ。
「地球の空も青いのかな。」
「同じ青だとしても、もっと輝いてるはずよ。」
「そうかなあ。」
「そうよ。だって『楽園』だもの。」
 全ての色が一際鮮かに輝く、喜びと光に満ちた楽園。言い伝えでは、地球はそういう場所だということになっている。
 遙か数百年前、この地に天空から銀色の舟が降り立った。史実か寓話か分からないような話だ。当時この地に生息する人間は未発達で原始的な生活を営んでいたが、天空から訪れた者達は優れた科学技術を持ち、美しく、天災を予知するなどの異能力も見せた。原住民は彼らを神とあがめ、神々もまた古くからの民を尊重し、民に技術と知識を分け与えたという。
 この地に降り立った神々は五十名程。彼らは『地球』という星から来たと告げた。彼らの大半が、いずれは地球に帰る事を望んでいた。しかし着陸時に破損した銀の舟を補修し燃料を備蓄する為の施設がこの地には存在しない。準備を整えるまでには長い年月が必要らしい。神々は見果てぬ故郷を懐かしんだ。その憧憬はいつの間に、神々と共に暮らす原住民の間にも根付いた。母なる地球、遠い故郷。争いもなく、光と喜びに溢れた楽園。いつの日か帰ろう、我らが遠い故郷、夢の楽園へ。
 しかしこの地に神が降り立って数年後、神同士の間に紛争が起こった。争いのない楽園から来たはずの神々は、お互いが殺し合って死んだ。生き残った唯一の神は、現在最北の地におわします観世音ただ一人。
 唯一神となった観世音は絶対的な権限を握ってしかるべきだが、彼、もしくは彼女は何もしなかった。何も求めなければ何も要求しない。施(ほどこ)しを与えもしないが重税を取り立てる事もない。そして今や、民は神の存在を忘れかけている。人々の間に唯一残り続けた憧憬は、楽園への回帰。
「紅孩児から連絡あった?。」
「まだよ。」
「ちと遅くねえ?。もう半月以上経ってんでしょ。」
「東に行くまでだって時間がかかるし、それに潜入調査だもの。」
「まあね・・。」
 解放軍が『創世記』を求めて西へ出向く以前に、解放軍リーダーの紅孩児は単独で東地区に入った。地球に戻る船、あるいはその制作を可能にする技術が東には隠されていると、紅孩児はそう読んでいた。連絡が無いのは潜入に成功したからだと思うべきか、或いは。
 悟浄は、もしかして、と言いかけて止めた。紅孩児を心から慕う八百鼡に、憶測で話すような事柄ではなかった。
「西行ったヤツらからは?。」
「そっちもまだ。連絡は無いわ。」
「・・そう。」
 お互いの胸に湧いた不吉な予感を振り払うように、八百鼡が殊更に明るい声で話し出した。
「ね、西に行ったことある?。」
「ない。」
「西の人はね、クリスチャンなのよ。」
「栗栖ちゃん?。」
「基督教っていう宗教を信じているの。」
「胡散(うさん)くせ〜。」
「一人の司祭さまが、海辺の街を統治しているんですって。」
「独裁の爺ィが?。」
「違うわよ。世襲制の代表者で、前の司祭さまは早くに亡くなったから、今の司祭さまはとってもお若いそうよ。」
「へー。」
「双子なんですって。」
「金銀のヤツらと一緒かあ。」
「一人は女性ですって。」
「へえ。」
「司祭さまは男性という決まりだから、姉弟の弟君の方が司祭さま、ってわけ。」
「そお。」
「司祭さまはね、四色の祭服をお持ちなの。季節や祝日によって着替えるのよ。」
 悟浄にとってはまったくどうでもいい話だった。
「白、緑、紫、赤の四色で、緑は普段お召しになるの。白は復活と純真を表すから復活祭の日に、紫は改悛を表すから待降節に。」
「赤は?。」
「殉教の色よ。主の受難日、聖なる金曜日に。」
「へー。」
 八百鼡に西の知識を植えつけたのは、地球回帰を唱える紅孩児だろうか。愛する男の夢を自分の夢として、八百鼡は行ったこともない地球を夢に見て、教義も知らない旧い宗教に憧れる。
「今の司祭さまはとても知的で見目麗しいって噂よ。精悍な司祭さまに導かれる街って、なんだか素敵だと思わない?。」
 別に全然思わない。言おうとした内容が言葉にならなかったのは、悟浄を覗き込んだ八百鼡の瞳が生き生きと輝いていたせいだ。青い空を背景に輝く、希望に溢れた瞳。アンタ自身の方がよっぽど素敵だと、喉まででかかった台詞をも、悟浄はやっぱり呑み込んだ。何故なら八百鼡は紅孩児に惚れている。
「ね。素敵でしょう?。」
「・・かもね。」
 その時遠くから誰かが悟浄を呼んだ。嘘くさい同意を見破られたような気分で、悟浄はちょっとドキッとしたりする。
「李厘だわ。」
 寝転んだ草地から半身を起こして振り向けば、小さな人影が悟浄の名を呼びつつ駆けてくるところだ。確かに李厘らしい。
 彼女が悟浄を呼びに来るということは、悟浄担当の仕事が発生したということだろう。仕事とはつまり、食い逃げを追いかけるとか客同士の乱闘を止めるとか、暴漢を殴り出すとか、偵察に来た連邦局の奴らを脅して帰すとか、まあそんなあれこれだ。それ系の仕事は慈燕に任せられない事もないが、店内唯一人のオーナーシェフが肉体労働まで請け負った日には、店はあがったりだ。場末の飯場では、暴力沙汰は日常茶飯事だった。
 悟浄は草地に立ち上がると、青い空に向けて大きく背伸びをした。これから軽く一仕事だ。
「そんじゃまあ、行ってくるわ。」


続.


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