〜 Blue, blue sky 〜

僕が生まれたのは何の変哲もない住宅街で、思い出になるようなものも特になかった。
ありふれた町でありふれた遊びでも繰り返していたのだろうか、子供の頃の記憶は殆ど無い。

晴れた日の青い空に混じり始める夕暮れの赤とか、そんな事ばかり覚えている。

つまらない町並みが空という果てしない自然に区切りを付ける。
自然界の風景を直線で切り取るものは、全て人工のラインだ。
住宅の屋根、ビルの壁、電柱、電線、看板、柵。

きっとそれらが僕に意識をくれた。
自然に区切りを付けるものがなかったら、僕の意識はどこまでも遠くまでさまよい続けて、
いずれ戻れなくなっていたかもしれない。

だから、ありきたりの線に区切られていることも含めて、僕はこの町の風景を愛した。

多分、他者を求めながらも怖れる僕は、自然に逃避し、
人そのものよりも人の存在を予感させる建造物にむしろ愛着を感じたのかもしれない。


空は、僕に何かを思い出させる。
帰るべきところがあるような気がする。
何かを覚えていたような気がする。

僕はいつまでも思い出せず、だけどそれでいいと思っている。

僕は今ここにいる事に同意している。
きっとまだ帰る時間じゃない。
やり残したことを終えたら帰り道を探そう。

日常の瑣末時に没頭して、僕は時々自分が誰かすら忘れる。
気づかないまま、自身と他者の区別すら曖昧になっている。
よく晴れた日の空、いつもより濃い青は、どこかに帰り道があると仄めかす。
そうして僕は思い出す、何かのために、僕は望んでここにいるのだと。

存在は、常に『偶発ではあり得ない』。
あまりにありふれた風景が、時折そんなふうに語る。
聞こえるのは僕だけじゃないだろうと、ずっと思っている。

〜 2001.12.15 by kei

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